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2001.01.03 盗石 |
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三峰川本流から林道までの河原に、まるで巨大ミミズが這いずったような跡がついていた。はじめこれが一体何なのかわからなかった。跡は50m、いやもっとあったかも知れない。草木をなぎ倒し、砂と砂利と漬け物石ほどの石を押しのけ、河原をえぐるように、ズルズルと太い一本の筋がついていた。跡は全部で4本あった。 長谷村の市ノ瀬、杉島の集落から三峰川に沿って、車で走ること40分、さらに一般車両進入禁止の堅牢な大曲ゲート手前に車を置き、三峰川林道を歩いて90分。荒川出合い付近の光景である。 巨大ミミズの跡は石泥棒の残した跡だった。三峰川流域は、南アルプスの造山運動によって、組成が変異に富んだ石を生み出している。五彩石や赤色チャートをはじめ、三峰川の水石はつとに有名であるから、高額で取引されている。 手口を想像するとこうだ。まず昼間、三峰川の河原を歩いて石を物色する。それからばらく経った日の夜、大曲ゲートを合い鍵を使って、クレーンつきトラックで進入する。トラックは1台ではない。少なくとも2台が一緒に行動する。目星をつけておいた石にワイヤーをかけ、大きな石を2台のクレーンで林道まで引っ張り出してトラックに積み込む。川から林道までの距離が50mあっても、どんなに重くても、手練手管を駆使しての悪業のテクニックである。あとは荷台に幌をかけて暗いうちに持ち去るというものだ。 南アルプス国立公園、県立公園に囲まれている三峰川源流の石に、関係機関が採石権を許可していることはまずありえない。巨大ミミズの跡を盗石と想像するのは、おそらく間違いないだろう。ただ河川には、森林法・砂防法・河川法・採石法・漁業組合法など様々な法律が多面的に網掛けされているから、法律の隙間をついた盲点があるかも知れない。 だが百歩譲ってそうであっても、川から石を持ち去り商売にすることが自然にとって、三峰川にとって許されることなのだろうか?景観を形成する石、洪水時に水勢を和らげる石、岩魚や水生生物の住処としての石がなくなっていくことを考えると暗澹となる巨大ミミズの跡だった。 | |
2003.07.20 釣り天狗ふたたび | |
心配した天気も大丈夫そうだ。朝早くからリュックサックを背中に、釣り竿を手にした子供たちが公民館に集まってきた。なかには昆虫採集のカゴまで持っている子もいる。集まった子どもは、小学生18名、未就学児童数名と中学生が男女5名と、それに大人が15名ほどになった。小学生はほぼ100%近い参加、中学生も半数の高い参加率だ。 実を言うと、「あんまり集まったらどうしよう」と心配していたとおりの結果になってしまった。渓流釣りの指導者が少ないから、子供たちの数によっては、釣りを楽しめない大人ができるかもしれない。竿の数も絶対的に足りない。仕掛けも人数分はない。心配が的中した形となった。大急ぎで、近所の竹林から手頃なハチクを分けてもらい、にわか仕立ての釣り竿をつくることにした。鉈の背を巧者に使い、子供たちが見ている前で、たちまち竿ができあがる。「どうして竹の枝は、鉈の刃で切らないの?」と子どもの素朴な質問。「そう言うものなんだ、まあ、やってごらん、わかるから」という明快な回答。仕掛けは川に行ってから作ることにして公民館を出発する。 「地域の子どもと、大人との関わりを、渓流釣りを通じて育もう」、「岩魚にこだわった本物の釣りを伝えよう」、「自然のなかでは自分の力で過ごそう」云々と、一応の目的と大儀をもって始めた「中条釣り天狗の会」も今年で3回となった。糸をたらし、岩魚を釣る努力をして、火を熾してご飯を炊いて、釣った魚を粗末にしないよう感謝して食べる。そんなごくあたりまえの、自然のなかでの過ごし方をしようというものだ。 場所はいつもの通り小沢川上流の北沢だ。今年も天竜川漁協のKさんに養殖岩魚を70匹ほどお願いし、予め北沢の河川使用の許可をとった場所に放流しておいた。うれしいことに漁協の担当者は、大きなニジマスを2匹おまけにくれた。ニジマスは50cmと45cmクラスの超大物だ。小さな岩魚1匹でも、「おまけに入れておくよ」なんて言われれば、「なんていい人なんだろう」と感激するのに、ジャンボニジマス2匹だ。太っ腹の漁協に感謝感謝。しかし、そんなにでかくちゃあ、子どもでは上げられないだろうな・・、もしそんなお化けニジマスを釣りあげたものなら、きっと人生が変わってしまうんだろうな・・、いったい放流したイワナが何匹回収できるのか・・、なんて考えながら、ともあれお祭りの始まり始まりだ。 |
2003.08.15リベンジじゃい!(釣り天狗ふたたび−2) | (1).血なんかへっちゃらさ。と釣り上げたジャンボニジマスにみんなが集まってきた。
のんちゃんは、一躍時の人となった。(小島さん撮影) (2)地区の行事は、いつもここから始まる。築後半世紀を過ぎた中条公民館だ。天狗の会 の講習会も、反省会もいつもの公民館だ |
岩魚釣り大会も3回目になると、子どもたちの竿さばきも、だいぶ上手になってきた。ポイントへの振り込み方や、当たりの取り方もそれなりに様になっている。初参加の子どもや大人は、急ごしらえの池で岩魚釣りのイロハを教わり、やや慣れた中級者は、渓流の思い思いのポイントへ行って岩魚をねらう。いずれもわくわくと、静かな興奮のなかで、糸を垂らしてじっと目印を追う。 池ではさっそくブドウ虫を餌に、小学一年生のてっぺい君が20cmの岩魚を釣り上げた。緊張の面もちの後、破顔に変わり、やがて歓喜の声が響く。横にいるお母さんまで、「すごい。すごい」の連発の世界だ。この一匹で、他の子どもたちも俄然ファイトが湧いてくる。羨望のまなざしをてっぺい君に向けて、みんなの目の色は一層真剣になる。しばらくして誰かの竿が大きくしなった。10数人が竿を出しているから、一瞬誰の竿にかかったのかわからない。ただしなり方が尋常ではない。「あれだ!漁協でおまけにくれたジャンボニジマスだ。」狭い池では、何人かがお祭り(糸が互いに絡み合うこと)になって、それぞれ自分の竿に掛かったと信じて緊張する。一人がスカではずれ、もう一人が自分ではないと気づき、また一人ががっかりして、結局巨大ニジマスは、のどかちゃんの竿に掛かっていることがわかった。小学6年生ののどかちゃんはまだ初心者のグループだ。当然竿さばきは危なっかしい。ばしゃばしゃと走り回るジャンボニジマスに振り回されている。すごいファイトに、急ごしらえの竹竿は折れないか、仕掛けは切れないか。他の子どもたちは「のんちゃん、ガンバレ!ガンバレ!」と声援する。竿は大きくしなったまま、糸鳴りをしながら右へ左へ猛然と走る。取り込みは水に入って、エラに指をつっこみ、お腹に手をあてて、「せーの」と、岸へ放り投げて大捕物は終わった。のんちゃんは、ぼーぜん自失、のち破顔。実はのんちゃん、昨年の釣り大会では、一匹も釣れず、悔しい思いのままで一年を過ごしている。しかし雌伏一年、のんちゃんは、密かにリベンジを期して、見事に本懐を遂げたのだ。しかも50cmの超大物を釣ってだ。のんちゃん一家の釣果は、ゆうちゃん(中学1年生)岩魚2匹。お母さん岩魚1匹。そしてのんちゃん50cmニジマス1匹と岩魚1匹。ジャンボニジマスの強力な引きを、体の芯に記憶させたのんちゃんは、きっと人生観が変わるんだろうな?それにしてもお見事!パチパチ。 |
(1)アマダイ、大吉を引く確率より、はるかに少ない勝負にかけた日本海の鯛釣り。アマダイは刺身、吸い物、塩焼きで美味しくいただいた。 (2)もう二度と来るものかと固く決心したはずなのに、あのあたりと引きを思い出すと心が揺らぐ。また行こうかな? |
2001.12.05カモメは知っている |
カモメが数羽船のまわりを飛んでいる。青い海原、群れ飛ぶカモメ、歌の世界のような光景だ。手を伸ばせば届きそうな空中に浮かんでいる。「タイの当たりは、最初にグッと穂先が沈むから、その瞬間に合わせればいい」とヤンマー君に教えられた。船酔いをしないように、時々遠くの山々にも目をやりながら、じっと穂先を凝視していた。波が動きだし、船が上下し始めたことも知らず、竿先ばかり見ていたら、しだいに気分が悪くなってきた。何かの拍子に糸が絡まり、ごちゃごちゃの糸を解きほぐしていると、急に胃の底からこみ上げるものがあった。完璧な船酔いに襲われてしまった。自制もきかず、なるがままに海への苦しい嘔吐が始まった。実は、群飛ぶカモメは、船の周りを意味もなく飛んではいなかった。どうやら、一番最初に船酔いをしそうな人間を物色していたのだ。別の船のまわりにいたカモメまで集まってきた。黄色い目元がきついそうな目で睨みながら、また吐きそうな僕の目の前を飛んでいる。「おい、おまえ、早く吐いて楽になりな」明らかにカモメに蔑まれているのがわかる。期待に応えて再び「ゲー」。カモメは知っているのだ。この船の15人のなかで、誰が最初に吐くのか、コマセを播くのかを。悔しいがどうしようもない。吐き出したコマセに群がっている。船酔いは、涙とも鼻水ともつかない、もうぐちゃぐちゃの世界になった。ヤンマー君が心配して、背中をさすってくれた。ところが、こんな状態でも僕は穂先を見ていた。吐き続ける人間と、釣りに夢中の人間が同居できる人格なのか、吐きながらも不思議と冷静だった。もう一度激しく吐いた瞬間、突然穂先がカッと沈み込むのが見えた。「来た!」吐きながら合わせを入れると、グッグッーと引き込まれ、竿が大きくしなった。リールを素早くリズミカルに巻き上げた。巻き上げては吐いて、また巻き上げる。70mの底から上がってきて、海中で白い腹が反転すると、魚は横になって静かになった。糸を掴んで船上に引き上げた。おでこの突き出たアマダイだった。吐きながら釣り上げた50cmを越える、釣り師垂涎のアマダイだ。他の釣り客まで集まってきていた。拍手があったような、握手をしようとしたら、汚くて誰も手を出してくれなかったような、取りあえずボロボロでも「大吉」と出た海釣り編だった。 |
2001.11.21われは海の子、漁師の子 |
1. 初栄丸船と船長にすべてを任せて海へ出る。港を離れれば、忘れ物をしても、気持ちが悪くなっも、自分の都合はもう出せない。 2.港どうやって使うのか知らない漁具が野積みしてあった。なじみの薄い 漁港は、私にとっては異界の場所だ。 | ||
「小泊」にある能生漁港には、全長約20m、排水量12dの「初栄丸」が停泊していた。乗り合い船としては、安心の大きさだと言う。さっそく釣り竿・リール・クーラーボックス・飲み物・エサを、ヤンマー君の指示で船に乗せる。出発直前に到着した群馬県の2人の釣り客と、結局釣り宿で朝まで一緒に飲むことになった客を合わせた15名の乗船だ。船首には群馬の2人が陣取った。この場所は船釣りではベストポジションらしく、慣れた動作でもう仕掛けの準備を始めている。すると、ねじりはちまき・サンダル履き・半袖下着姿のヤンマー君が、「おい、お客さん、ここは伊那のお客さんたちが使うから、後ろへ行ってくれや」と指示する。素直に従った彼らは、きっと釣り宿の息子か何かと思ったに違いない。船長に向かって「おい、親父、貸し竿が足んねえぞ」、「おう、分かった」のやり取りと、サンダル履きの風体を見れば、とても信州から来た釣りの客には見えない。どう見ても海の子、漁師の子である。午前5時30分に出港した。初秋の日差しが、穏やかな海面に反射している。進路が決まると、船は潮風を切ってぐんぐん進んだ。振り返るたびに小泊の家並みが次第に小さくなっていく。海はうねりが多少あっても、べた凪に近い。船酔いの心配はなさそうだが、穏やか過ぎて魚が釣れるのかと心配の声が聞こえる。40分ほど沖へ出た頃だろうか、操舵室にいる船長とヤンマー君が、魚群探知機をのぞき込んだ。このあたりは水深70m〜80mらしい。海は青黒く、不気味な色をしていた。ぼつぼつ釣り始めるようだ。狭い船の上をぴょんぴょんとヤンマー君がやってきた。「白鳥さんは何をねらう?他の人はみんなアジねらいのようだけど」 「タイは釣れるの?」「釣れることもあるよ」それじゃあと、一発大物ねらいのタイ釣りに挑戦することになった。僅かのチャンスがあれば、一か八かの勝負をかける性格だ。ここまで来て、手堅い釣りをすることはない。ボーズか大漁か、大凶か大吉のいずれかだ。仕掛けはタイ用の一本針に、能登輪島産の一匹250円の岩虫を付ける。「ヒューッ」と短く警笛が鳴って、さあ戦闘開始だ。 |
2001.11.07 釣り天狗、海へ行く | |
白馬から姫川に沿って糸魚川まで延びる国道148号線では、昔の景色を見いだすことはできなかった。夜、車を走らせたからではない。平成7年7月の集中豪雨による山地の崩壊と土石流で、JR大糸線をはじめ国道がズタズタに寸断される大災害を受けたためだ。災害復旧後の道路は、冬季間も雪崩の心配がないようにと、道をトンネルや洞門の中を走らせ、昔の面影はわずかに地名を表す青い標示板にあるだけだった。かつてイワナを追って、姫川とその支流の大所川・小滝川・中土川・横川などの県境の川へ頻繁に通っていた頃の、猫鼻温泉・塩原温泉や、葛葉峠の白馬大仏の記憶には、とうとう会うことなく日本海へ出てしまった。今回は中条天狗の会「海釣り編」で、新潟県糸魚川市から20分ほど北上した能生町にやってきた。1人の海釣りスペシャリストと、5人のにわか釣師の編成である。対象魚はアジとイナダとタイ。乗り合い船での初めての本格的な釣りだ。「40cmのアジは入れ食い状態。イナダも絶対釣れる。大物のタイも釣れるかもしれない」と、通称ヤンマー君の話しに、一同すっかりその気になっていたのである。深夜営業の釣具店で仕掛けとエサを仕込み、コンビニでは朝食と船上の宴会用ビール、日本酒、焼酎とつまみをたっぷりと買い込んだ。能生町にある釣り宿「初栄丸」には、早朝3時に着いた。買い物をしていた時間を除いても、伊那から能生までは3時間ほどの距離だ。災害復旧の終わった姫川沿いの道は、景色が楽しめなくなったのと引き替えに、運転時間がずいぶんと短くなった。複雑な感傷だ。ヤンマー君は30代前半の海釣りのスペシャリストで、ほとんど毎週末に日本海か、太平洋へ出かけている。今回連れてきてもらった釣り宿「初栄丸」など、勝手知ったるわが家のようだ。暗がりで電気をつけ、奥の冷蔵庫からつまみを出し、冷えたジョッキに生ビール注いで、「祝・大漁」の宴の準備を始めた。こんな朝早くからビールなど飲んでいいのかしら、と訝りながらも、一同小さな声で「かんぱ〜い」をする。テーブルには日本酒、焼酎が並んでいる。ガラス戸一枚隔てた奥の部屋には、今回一緒に乗船する釣り客が5〜6人寝ていた。 |