****釣りよもやま話****2003.12.13日掲載

功君がニコニコしながら小ビクを差し出すと、みんなの視線が一斉にその中に注がれた。
ビクは北信濃の土産物店で見つけたもので、底が角張っていて使い勝手が大変いいと、まずビクの自慢が始まりそうになる。けれども僕らはビクより中身に興味がある。功君のことだから、もしかしたら、幻のツガタケを採ってきた来たかも知れない。
あの笑顔は、みんなに幸せを分けてくれる時の善人の笑顔に見える。
「いつものツガタケの城(しろ)へ行ったらこれだけ採れた。ジャジャーン」と、ビクから笠(かさ)の開いた大きなツガタケが出てきた。「ウッわー、すげえ」「なんだこりゃあ」歓声が薄暮の戸台河原にこだました。夕食の準備をしていた山仲間も、包丁や、タマネギ、薪拾いの手を止めて集まって来た。テントを張っていた会員も、ひとまず作業を中断してやって来た。
ビクから大事大事に取り出す。1本2本3本・・・全部で8本のツガタケだ。まな板の上に丁寧に並べる。笠ビラキが3本、どれも太く逞(たくま)しい。
ツガタケは匂いも形も、マツタケと全く変わらない。
アカマツについたマツタケ菌がマツタケで、ツガタケは亜高山帯のツガ林に生えている。
ともに同じ菌だが、ツガタケの方が一回り大きくなる。標高2000メートルを越える亜高山帯の岩間に生えるから、誰にも採りに行く訳には行かない。
高山まで登ってても、足場も悪く探すには一苦労だ。道もないし、転落の危険も待っている。
山のベテランのみに許された究極のキノコだ。
人跡希(まれ)な山城で、万が一ツガタケの城にでも出くわすと、数十本のキノコおn群に会える事がある。事実何年か前に功君はは、足繁く亜高山帯に通った末に、ものすごいツガタケの城に出会ったという。「背負いビクに3杯は採れたね」と、こともなげに話す。名人の風格だ。
今宵の戸台河原は、伊那山仲間の秋合宿の宴会である。早朝から鋸岳へ向かった小平パーティー、赤河原から六合に石室を経て東駒ヶ岳に登り、八丁坂を駆け下ってくる単独行の平林君、巨大な石灰岩帯に深く刻み込まれたイワンヤ沢を、ザイルとアブミとハーケンで遡(そ)行する丸山パーティー、それに仕事の都合で夕方から合流するお祭りの宴会組と、総勢20数名が戸台川の河原に集まって来た。
新人3人を含むイワンヤ沢の6名パーティーはずぶ濡れで帰って来た。火の周りで服を乾かしている。宴会組がキノコ汁を作り、焼き肉の準備をしているところに、功君のけた外れのうれしい差し入れときた。1本はキノコ汁に入れる事にした。残りはすべてアルミホイルで包み焼きにし、裂いて醤油を垂らして食べる事になった。
いずれも贅沢な肴(さかな)で、新人会員にとっては、この上ない歓迎の酒宴だ。あたりはだんだん暗くなってきた。秋の冷気が体を包み、草むらには虫の集きが聞こえてきた。

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